雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

フレップ・トリップ

大正十四年に当時の鉄道省が主催した樺太視察旅行の記録です。
五足の靴」のメンバーの一人なのでこの本で読んだ文章のいくばくかは白秋によるものだと思われます。
しかし、私は詩が苦手なので、これ以外には北原白秋はほとんど読んだことがありません。

本書は紀行文という体裁をとっているのですが、むしろ文体の実験という側面のほうが大きいように思います。
本書の最後、海豹島でオットセイの群れを見終わったあとの場面を引用します。
波濤、波濤、波濤、
渺たる海豹島の遠景、
暁天、
たちまち、
幕面を斜めに切って映ったロップ、
大汽船の鉄欄、
半側だけ見える巨大な通風筒、
と、ゆらりと、葉巻を啣えて出てきた支那服の北原白秋、
その顔が大きく微笑すると、微笑しつつ、いよいよ大きく、更にいよいよ大きく幕面いっぱいになる。
映画のラストシーンのようですが、主人公の位置に自らを配置しているのも面白いです。
全編の半分くらいはこのような改行を多用したスピード感のある文章で構成されており、当地で見聞きしたものをそのまま記すことはあまりありません。
そもそも樺太自体には海豹島と樺太神社以外には観光するべき場所が少なく、ロシア人も含めた地元民の生活や寒地の自然くらいしか見るものがなかったのでしょうが、それ以上に白秋の意図が感じられる内容です。

当初は樺太西岸を南から順次刊行しながら北上するはずだったのが、のちの昭和天皇の行幸ルートと重なってしまったために急きょ日本領北端から南下することに変更となったのは、時代を感じさせられました。
現代だったらそのようなことは前々からわかっているようなものですが、当時は皇族の予定については秘密主義が徹底していたのか、または単に連絡が悪かったのかはわかりませんが。

私は岩波文庫版を読んだのですが、「青空文庫」でも読めるようなのでわざわざお金を払う必要はないように思います。
ただし、一部フォントサイズを大きくして強調するなどの工夫がなされているのが、青空文庫では再現できないかもしれませんが。
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  1. 2018/03/04(日) 20:59:32|
  2. ★★★★
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