雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

百貨店

主に1950年代に発行された「アテネ文庫」の中の一冊です。
「百貨店」というタイトルを見て小売業の華やかな世界を想像して読み始めたのですが、中身は古風な商家訓や商売上の心構え、そして呉服店から百貨店への移り変わりの歴史などでした。
私にとって昔の百貨店といえば「ボヌール・デ・ダム百貨店」の印象が強いせいか、商品が次から次へと飛ぶように売れて客が理性を失って浪費するようなイメージを持ってしまいます。
本書の著者は昭和初期に三越本店に勤めた人物なのですが、実務を担当した人著書らしく極めて地味な内容に終始しています。

冒頭、「近江聖人」ともいわれた中江藤樹の平等思想から始まり、さらには商人の倫理を説いた石田梅厳の
商人の道を知らざる者は、貪ることを勉めて家を亡ぼす。
商人の道を知れば、欲心を離れ、仁心を以て勉め…。
という言葉を紹介し、商人にとって重要な精神論を解説します。
特に、高島屋の創業者出身地である近江高島市を根拠地とした中江藤樹の影響力は明治期の商人にとっては絶大だったようです。
江戸時代の影響が残る当時は、いまだに「士魂商才」なる言葉も現実味を帯びていました。
武士たるもの、虚業たる商売に手を染めることは恥であると考える人も多かったのです。
これに対し、誠実な商売を通じて過去の武士としての誇りを取り戻すということをわざわざ述べなければならなかったところに時代を感じさせられます。

著者は米国留学や欧州視察の経験を活かして、西洋の百貨店事情や経営学についても解説しています。
とくに世間からの支持を集めることが重要な小売業にとっては、「ピー・アール」活動の重要さが強調されています。
現代においては極めて当然のことなのですが、商品の宣伝だけでなくメセナ活動などによる会社そのもののブランド価値の向上にまで言及しているのは、当時としては新しかったのでしょうか。
近江商人の伝統的な倫理観である三方良し(売り手、買い手、世間)だけでなく、株主の満足も重要である旨を記載しているのは現代的であるように感じました。

体裁は古臭い倫理書であり、商売の指南書に近いものです。
しかしよく読むと内容はそれなりに面白いものだと思いました。
さすがに古さは否めず、アテネ文庫の復刊リストから外れているのもやむを得ないところですが…。
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  1. 2018/03/03(土) 10:18:40|
  2. ★★★★
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