雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

ものづくりの寓話 -フォードからトヨタへ-

私は製造業の会社に勤めています。
日本の製造業の代表格といえばトヨタ自動車で、メーカーに身を置いているとしばしば「トヨタ式○○」という言葉をよく目にします。
最も有名なのはジャストインタイムとかかんばん方式なのですが、それ以外にもトヨタ式カイゼン術、品質管理、工場の整理整頓、挙句の果てにはトヨタ式人心掌握術などというのもあります。
そのほとんどは、トヨタOBが設立したコンサル会社のうたい文句なのですが、当然のように彼らはトヨタ式をよいものであると宣伝したいがために、時にはトヨタ式に従えば何でも解決する魔法のような文言になったりもします。
さらには、業界紙の記者やライターがトヨタ式の宣伝をそのまま記事にすることもあり、これらを読むと極めて嘘っぽく思うことも多々あります。
そのうち、トヨタ式健康法とか、トヨタ式格闘術なんかも出てきかねない雰囲気です。
トヨタに実際に勤めている人は、これらの世にあふれる「トヨタ式」についてどう思っているのでしょうか…。

製造業の特徴としては形のあるものが部品として動き回るために、部品の現物の管理が非常に重要だということがあります。
製品によって部品の点数や複雑さには差があるのですが、この中でも最も複雑なものが自動車です。
(飛行機も同じくらい複雑なのかもしれませんが、飛行機の場合は生産台数や品種の数が限られているために、自動車よりはまだ複雑さが抑えられているのだと思います。)
トヨタが過去最も苦労し、かつ現在では洗練されたシステムを持っているのはこの部品の管理、さらに広くいうと工程の管理にあります。
(少なくとも人心掌握術とかではありません。)
本書では、トヨタがいかにしてこれらのシステムを作り上げていったかが、当初のお手本であったフォード社を含めて論じられています。

フォード社といえばベルトコンベアによる流れ作業というイメージでしたが、本書によるとベルトコンベア自体は付随的なものです。
フォードの大量生産を支えた最も根源的な要素は、部品の標準化でした。
今では同じ品種のネジを使っていれば、あるネジ穴にはきっちり閉めこむことができます。
しかし、かつてはこれは当然のことではなく、ネジとネジ穴の相性を見て、個別にネジを選んだり、やすりがけをしてネジがはまるように微調整をするというのが普通でした。
これは、ネジの設計に対する公差の考え方が普及していなかったことと、ネジを作る機械の精度が低かったことが原因です。
フォード社はこの公差と精度を整備することにより部品同士の互換性を確保することで、部品の点数さえ確保すればどの組み合わせでも部品同士を組み立てることができるようにしました。
いちいちはめ合わせの確認や調整をしなくていいというのは、大量にさまざまな品種の車を製造しようとするにあたっては必須の条件だったのでしょう。

トヨタもフォードの工場に倣って公差の仕組みを取り入れようとはしたのですが、残念ながら当時の日本が持つ工作機械の精度では、公差を満たすような部品が作れなかったようです。
しかも、公差の考え方以前に昔ながらの職人気質の考え方が残り、工作機械の整備はそれを使うものがやるべきものだという考え方が一般的でした。
これは工作機械の公差を定めてその範囲内におさまるなら誰が整備してもOKだという定量的な考え方とは完全に逆行しており、カンとコツに頼った互換性とは無縁の世界でした。
本書の後半はこのないない尽くしの状態からスタートしたトヨタの苦労が描かれています。

私はトヨタの歴史には全く詳しくなかったのですが、戦前や戦後直後の状態を読むとよくこれで世界と勝負できるまで追いついたものだと思います。
私が戦後直後の状態のトヨタに勤めていて、かつフォード車の状態も知っていたとしたら、追いつくことなど思いもよらなかったことでしょう。
豊田家から輩出されたの代々の経営者たちが有能だったことは奇跡的だと思います。
よくある「トヨタ本」のような、トヨタを神格化して魔法のように経営が改善するというようなことは書いておらず、資料に基づいて実態が描かれていると思います。
とても分厚い本ですが、それでも話の流れが明確なので読みとおすのに苦労は感じませんでした。
スポンサーサイト
  1. 2018/01/14(日) 18:33:21|
  2. ★★★★★
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

コメント

<%template_post\comment>


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://mietzsche.blog.fc2.com/tb.php/906-b60c6cc4
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad