雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

中上健次 電子全集2 『紀州熊野サーガ2 オリュウノオバと中本の一統』

竹原秋幸三部作」に続く、紀州熊野サーガ。
本書には「千年の愉楽」と名付けられた連作シリーズと、長編「奇蹟」が納められています。
熊野の「路地」と呼ばれるかつての家屋密集地(悪く言えば「スラム」に近いもの)に住む中本の血を引く男たちと、彼らのすべてを取り上げた産婆のオリュウを中心とした物語です。
中本の血を継ぐ男たちは、そろって多くの女性を引きよせるのですが、一方でヤクザのような刹那的な生活を歩んだ末に非業の死を遂げる運命にあります。
そのため、作中では中本の血統を「高貴で澱んだ血」と表現されています。

連作「千年の愉楽」では中本の血を持つ若者たちの一生が、それぞれの作品で記されます。
盲目になった末に首をくくるもの、手を出した女の夫に刺されて死ぬもの、この世のものならぬ女性に魅入られた末に水銀を飲んで死ぬもの…。
いずれの人生も中本の血に起因する匂いたつような男ぶりに彩られた華麗なものですが、急速に不吉な色を帯びて突然の死により幕を閉じます。
そしてこれに続く「奇蹟」では、中本の血族の中でも特に光り輝くタイチの一生が、その親分であるトモノオジと産婆のオリュウノオバの目を通して描かれます。
「千年の愉楽」もそれなりの分量を持っているのですが、これが「奇蹟」の単なる前置きだったのではないかと思えるくらいに「奇蹟」は面白い作品です。

かつては路地の裏社会を支配していたトモノオジですが、今はアルコール中毒で精神病院に収容されて廃人同然です。
幻覚の中で魚のクエやイルカに変身しつつ、すでに故人となったオリュウノオバとの会話でタイチの悲劇的な一生が語られます。
現実と妄想を行ったり来たりしながら、路地の神話的で閉塞した世界が重厚な文章でつづられています。
読むのに気力が必要なのは「竹原秋幸三部作」と同じなのですが、「竹原秋幸三部作」がひたすら重苦しかったに比べてこちらのほうがスピード感があり、個人的にはまだ読みやすかったです。
久々に読み終えた後に放心してしまうほど、小説の世界にとらわれてしまいました。
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  1. 2018/01/08(月) 22:32:34|
  2. ★★★★★
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