FC2ブログ

雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

ペストの記憶

1665年にロンドンをおそったペストの大流行についての物語です。
形式上は完全なるノンフィクションとして書かれていますが、語り手として架空の人物であるH・Fなる人物を立てるなど、一部は創作が混ざっているものと思われます。
それでも、引用されている記録などは実在のものであり、基本的には事実を踏襲していると考えてよさそうです。
これは、完全なるフィクションとして書かれた「ペスト」とは異なる点です。
(著者の思い違いによる誤記などはそれなりに混ざっているようですが。)

今でもエボラ出血熱などといった致死性の伝染病は完全になくなったわけではありません。
しかし、かつてはペスト、結核、天然痘などの多くの病に対してまったく太刀打ちできずに苦しんで死ぬしかなかったことを考えると、現代は本当に恵まれているのでしょう。
(明治時代の日本を舞台とした「時は過ぎゆく」において登場人物が次々と結核に倒れて志半ばで死んでいったことを考えると、20代~50代くらいまではめったなことでは病死しないという現代の特異性が際立ちます。)
本書と同じくペストを題材とした「デカメロン」において登場人物たちが一種捨て鉢な快楽主義を漂わせているのも、いつ死ぬかわからないのだから今を楽しむしかないというあきらめから来ているのだと思います。
本書の登場人物たちはみな、その「死」を目の当たりとして多かれ少なかれ正気を失った状態だったように見えます。

人は一般的に信じたいことを信じてしまうものだと言います。
ロンドンの西の町はずれでペストの流行が始まった時、シティの内部や東側に住んでいる人がペストとは無縁で過ごせるだろうと考えたことは、まったく根拠のないことでした。
そのため、気が付くとペストの流行に巻き込まれてしまい、しかもそうなってから避難しようとしてもどこに行っても受け入れてもらえないという羽目に陥ったのです。
貧しい人々はたくわえがなく避難できなかったのはある程度やむを得ないとしても、本書でもH・Fが述べていたように、全体的にはあまりにも無防備だったと言えるでしょう。

発症してから数時間でなくなることもあるとのことで、さっきまで元気に見えていた人が突然変わり果てた姿となってしまうこともペストの特徴です。
(変わり果てた、というのは視覚的にも浮腫や皮膚の色の変色などで本当に「変わり果ててしまう」ようです。)
そのため、守るべき家族が突然バタバタと死んでいくことにより、精神的に病んでしまい亡くなるケースも多かったそうです。
本当に、少なくとも致死性の伝染病からは無縁の状態で生きている私にとっては想像を絶する世界です。

本書の巻頭にかなり詳しい当時のロンドンの地図が掲載されており、照らし合わせながら読むととても分かりやすいです。
いつ終わるともしれない大流行のさなかに絶望していた人たちが、突然のペスト終息により一転して多幸感に包まれる様子は納得のいく話です。
スポンサーサイト
  1. 2018/01/03(水) 23:37:30|
  2. ★★★★★
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

コメント

<%template_post\comment>


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://mietzsche.blog.fc2.com/tb.php/904-efe1d0ef
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad