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雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

神聖なる海獣―なぜ鯨が西洋で特別扱いされるのか

一部の国々、とくにイギリスやオーストラリア、アメリカ、オランダなどが捕鯨禁止を求めているのに対し、日本やノルウェーはその根拠の薄さを主張しています。
本書は、イギリスに留学した際に捕鯨に対する偏見の強さにショックを受けた著者が、捕鯨反対国がなぜこれほどまで捕鯨を嫌うのかについて述べたものです。

いくつかの論点が述べられているのですが、その中でも面白いと思ったのは、当該国の政治家にとっては捕鯨禁止を主張することにより、自らが環境問題に関心があることを主張するための便利な道具だったということです。
たとえば、大気汚染を防止することや、有害物質の排出を規制することなどを主張してしまうと、経済的なデメリットがあるためにある層からの支持を失ってしまうかもしれません。
これは、食肉動物の畜産(つまりは屠畜)への反対ですと、ますます強い拒否反応が返ってくるでしょう。
しかし、捕鯨を禁止しても全く彼らの懐が痛まないのです。
とくに、経済界とつながりが深くエコロジー的な主張をしづらい政治家にとっては、捕鯨反対は環境派の支持を得るための必須条件だったのでしょう。

また、問題をビジュアル化することの簡単さについても触れられていました。
オゾン層破壊や地球温暖化は派手な映像化が難しいのに対し、反捕鯨運動は単に鯨が殺されている場面をショッキングに伝えるだけでよいのでとても簡単です。
鯨は体が大きいので出血量も多く、捕鯨者の「残酷さ」を訴えかけるにはとても便利なのです。
著者によると、西欧諸国で反捕鯨がこれほど広がるのに寄与した大きな要因として、映画とテレビドラマで放映された「フリッパー」だったそうです。
それまで海生哺乳類を豚とあまり変わらないもとして認識していた人々に対し、海生哺乳類の賢さを印象付けることにより反捕鯨運動の火付け役となったとのことです。
そもそもフリッパー自体、そのような目的で作られたものだったものなので、興業的な面以外にも大成功したといえるでしょう。

反捕鯨を主張しながら、それ以外の家畜を殺したり長期間「非人道的な」環境で飼育することには目をつぶり、また西欧で古くからおこなわれている狐などの猟の残酷さにも鈍感です。
これは、他人を残酷だと主張している人が、その批判相手と全く同じ道義的欠点を持っているという状態です。
この点で、反捕鯨団体の活動は、それ以外の政治活動にもよく似ていると思います。
ネット右翼はしばしば自分たちが批判する「汚い中国人、韓国人」が持つとされる特性と、全く類似の特性を持ちます。
反戦運動、反暴力運動家の多くは相当暴力的であるし、共産主義は反ファシズムであったはずが典型的なファシズム的特徴を兼ね備えてしまいました。
反「反捕鯨運動」を行う人々(私もどちらかといえば彼らに同調します)が行う批判の一つに、反捕鯨運動家たちは文化帝国主義に陥っている、というものがあります。
自らの文化に鯨を食べる習慣がないために、鯨を食べる人間を異常であり野蛮だと決めつけるというものです。
アメリカやイギリスでは、日本人が馬肉を食べることに対する抵抗感も強いそうです。
一方で、一部の日本人は韓国人や中国人が犬を食べることを嘲笑したりします。
このあたりはミイラ取りがミイラになる危険が常に潜んでいると思います。

本書に全面的には同意しませんが、この種の本で感情的にならずにまとまったものを初めて見たので面白かったです。
素人にも読みやすい文章、内容だと思います。
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  1. 2017/06/18(日) 21:26:12|
  2. ★★★★★
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