雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

五足の靴

最近天草に旅行に行ったのですが、当地では隠れキリシタンに関連したトピックスと並んで、本書が観光の目玉となっておりました。
「五足の靴遊歩道」が整備され、資料館では五足の靴に関連した展示があり、足湯にはそのものずばり「五足の靴」という名前がついています。
津軽半島における太宰治と同じくらいの遭遇頻度なのですが、残念ながら知名度ではだいぶん劣るように思います。
私も今回旅行して初めて「五足の靴」のことを知りました。

本書は、明治40年に雑誌「明星」で作品を発表していた詩人5人組が、取材旅行で西日本を訪れた際の旅行記です。
与謝野寛、北原白秋、平野萬里、木下杢太郎、吉井勇という、現在から見ればそうそうたるメンバーです。
しかし、与謝野を除けばまだみな20代前半の若者であり、いまだその名声はそれほど知れ渡った状態ではなかったようです。
本書は東京二六新聞に連載という形で発表されたのですが、著者名は「五人づれ」となっていて五人のうちの誰がどの記事を担当したのかは明かされませんでした。
しかし、一読した限りにおいてはどの記事も幻想的な雰囲気を漂わせており、とても男五人のむさくるしい旅とは思えません。
旅のクライマックスである天草での大江天主堂訪問以降はやや盛り上がりに欠けるのですが、それでも五人の文章力が平均して高かったのだろうと感じました。

福岡県にある本土と志賀島を結ぶトンボロ「海の中道」を訪れた時の文章を引用します。
丘に登って洋々たる玄界灘を見る。
降って磯を歩く。
風なければ晴れたる海は静かである。
水の色は空に映り、空の色は水に映る。
紺青の世界の一方を限るは、卵の如く白い砂の壁である。
自然は意匠に富む、砂の壁は限りなく襞を作り、長く続いて厭くことを知らぬ。
白い砂が白く光って人の眼を眩す。
暑さは煎るようである。
えぐれた壁に蔭を求めて衣を脱し、天野、河内、中田三氏と我ら五人、八人の男は海に跳び込む。
海は遠浅だが同じ砂で底が成り立っている、その故に清く澄んでいる。
他に人はいない。
這い上がって砂の上に転がるは芋のようである、手と足とを使って砂丘に攀ずるは猿のようである。
登った壁をするすると滑り下る気持は何とも言えぬ。
H君の発見した小児らしい遊戯が八人の男を支配し、交る交る登っては滑り下る。
砂丘は八人の男と俗界との交渉を絶った。
本書ではこのような短い文章が畳みかけるように続き、急速に現実感が失われるという箇所がしばしばみられます。
また、当地で作ったと思われる短歌や詩が引用されることも多く、記事によってはまるで全文が詞書の体をなす歌物語のようでもあります。

天草にわたる船は悪天候のために揺れに揺れたようで、全員が船酔いでひどい目に遭ったのですが、それすらも本書で読むと別世界の物語のように感じられます。
私自身は散文のほうが好みで詩には興味がなく、そのために雑誌「明星」にも縁遠かったのですが、本書を読んでこれらの著者のほかの文章も読んでみたいと思いました。
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  1. 2017/04/26(水) 21:08:51|
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