FC2ブログ

雑記+ブックレビュー

書評というほどのものはありません。読んだ本に絡めて、日々思うことなどを書いていこうと思います。

時は過ぎゆく

田山花袋により大正5年に発表された作品です。
1952年に岩波文庫から出版されたものが、改訂されずに今でも版を重ねているので、漢字などはすべて旧字体のままです。

解説文に田山花袋が語った内容が紹介されています。
人間も四十になつて人生の全圓がまづ見わたせるといっていいね。
といふのは、自分が生きてきたのが四十年、その四十年の間に見てきた人たちが順々にさきへ生きて行つたのが四十年、つまり年齢の上からいふと、四十を中心にして前後へのびた八十年の生活が、空想でなしに觀照することができるやうになつたんだからな。
ぼくなども今にして始めて(ママ)五十、六十の人の心理も、七十、八十の人の生活も、ほぼそれと見通せるやうな氣がするよ。
私も似たような年齢ですが、必ずしも完全同意ではなくとも、言いたいことは理解します。
かつて若かった人もすぐに年を取り、年をとると容赦なく現実がやってきます。
逆に今では年をとって現実に打ちのめされたような人であっても、若かったころ、とりわけ幼年自体には夢にあふれていたはずです。
年をとるのは悪いことばかりではありませんが、マイナスの面が存在して、しかも避けることができません。
このあたりについての想像力は、20代のころはなかったと痛感します。

本書は、元家老の「旦那」の家に仕える良太という人物の人生を中心として、明治維新から大正初期までの世の移り変わりを表したものです。
かつての士族が明治維新後落ちぶれ、一方で百姓に過ぎなかったものが土地長者になったり、50年の間に世は激しく移り変わります。
そして個々の人々も同じように変化します。
若くて美しかった娘が姑との折り合いが悪くて心身を害して醜く死んでいったり、学問への志にあふれた青年が兄弟を養うために人生の苦難を経験して中年期には見る影もなくやつれ果てたり…。
ほとんどの人間は若いころの夢や希望をそのままの形で叶えることなどできません。
しかも、この時代には結核という死の病がまだ克服されておらず、健康な人間もいつ死ぬかわからない状態でした。
たとえうまくいったように見えても、時代の変化に左右されて当初の形のままではなくゆがんだ形になることもしばしばです。
よく、「現代は環境の転変が激しい」といいますが、それは明治の時代でもそうだったのであり、戦争や死病の危険が少ない分まだ現代のほうがましなのでしょう。

解説文によると田山花袋はこの小説と「田舎教師」の2作が自信作だったそうですが、確かにそれもうなずける内容です。
タイトルそのままですが、まさに「時は過ぎゆく」ものであり、二度と戻ることはないことを実感させられます。
典型的な自然主義の名作だと思います。
スポンサーサイト
  1. 2017/04/02(日) 07:53:09|
  2. ★★★★★
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

コメント

<%template_post\comment>


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://mietzsche.blog.fc2.com/tb.php/845-11f29ed7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

FC2Ad